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岡山地方裁判所 昭和58年(ワ)410号 判決

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金八〇万円とこれにつき昭和五八年四月一七日から支払ずみに至るまで年六分の割分による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1  被告を債務者とする岡山地方裁判所昭和五六年(コ)第一六号和議申立事件において、昭和五七年九月二一日、つぎのとおりの和議条件で和議認可決定がなされ、同決定は同年一〇月二日の官報に公告され、同月一六日確定した。

(一) 債務者は、和議認可決定の確定の日の翌日から六か月満了の日を第一回とし、和議債権元本額の一〇パーセントを、その後一年毎に第二回から第九回まで、それぞれ和議債権元本額の五パーセント宛支払う(合計五〇パーセント)。

(二) 各債権者は、前項の支払いが履行されたときは、残余の元本債権および利息、損害金などを全部免除する。

(三)、(四)は、担保条項で、本件と関係がないので記載を省略。

2  原告は、被告に対して、被告の振出にかかる別紙約束手形目録記載四通の手形金債権金四〇〇〇万円を有し、これを昭和五七年九月八日和議債権として届出をなし、前記和議事件の債権表にも記載されている。

3  従つて、前記和議条件により、認可決定確定の日の翌日から六か月満了の日である昭和五八年四月一六日に、第一回支払いとして、一〇パーセントの金四〇〇万円が原告に支払われるべきであるのに、被告はその支払いをせず、同年七月九日に至り、内金三二〇万円のみ支払いがあつた。

そこで、原告は、被告に対し、右残額金八〇万円とこれにつき右支払予定日の翌日以降完済まで商事法定利率相当年六分の割合による遅延損害金(和議債権となるも商事債務たる性質に変動はない)の支払いを求む。

4  ここで、原告は、本件争訟の争点および背景事実を述べておく。

本件の争点は、以下に記載のとおり、和議法四五条により準用される破産法二四条の法律解釈に関連するものである。そこで、その事実関係に触れるに、

(一) 別紙約束手形の裏書人である訴外石田産業株式会社も、岡山地方裁判所昭和五六年(コ)第一七号和議事件の債務者として、昭和五七年九月二四日和議認可決定がなされたが、その和議条件の要旨は、和議認可決定確定三か月後に、元本の二〇パーセントを、それから更に一年後に元本の七・五パーセントを、また和議認可決定確定の日から二七か月目を第一回とし、以後毎年一か年毎に元本の各一・二五パーセント宛を支払う(計四〇パーセント)、というものである。

(二) 原告は、右訴外会社に対し、別紙目録記載の約束手形金を含めて、金二億三四九〇万〇八二四円(元金だけの額)の和議債権があり、右和議債権については、昭和五八年六月一三日に、訴外会社からその二〇パーセントの支払いをうけた(本来、同年一月に支払われるべきところ、支払いが遅れたもの)。

(三) 和議法四五条が準用する破産法二四条により、手形の振出人、裏書人という各全部義務者である両和議会社に対し、手形金全額について和議債権として権利行使し、それぞれの和議条件による支払(被告から五〇パーセント、訴外石田産業株式会社から四〇パーセント、計九〇パーセント)を受けうるのは、右法条の解釈として、当然のことといえる。

ところが、被告は、和議条件のうえで、右訴外会社が先に二〇パーセントを支払うべきだから、被告が一〇パーセントを支払う段階では、元金額は八〇パーセントに減額になつているべきであるから、被告としては、減額後の元金の一〇パーセント相当額たる金三二〇万円の支払いで足るとの独自の見解をとり、さきのような支払い態度に終つている。

二、請求原因の認否

1、2項の事実は認める。

3項のうち、昭和五八年四月一六日が第一回支払日であつたこと、同日一〇パーセントの支払いがされるべきものであつたこと、後に原告主張の日に金三二〇万円の支払いをしたことは、いずれも争わない。

4項のうち、(一)、(二)の事実は認める。

三、被告の主張(法的見解)

1  和議法四五条で、破産法二四条を準用しているとはいえ、破産法と和議法とでは、性質的に相当の差異があり、これを度外視して全面的に同一の取扱いをしなければならぬものではない。

和議法にあつては、債権者から債権届出がされ、管財人および整理委員により債権調査がなされ、債権表に記載されても、確定債権となるものではなく、議決権行使をさせるか否かを決めるに止まる。この議決権行使については破産法二四条の規定を準用して、訴外石田産業株式会社も和議開始決定がされてはいたが、原告の届出債権金額について、議決権行使をさせている。

2  ところで、和議債権の配当については、和議の場合は債権が確定されておらないので、その支払時期に調査し、その時点で和議債権を確定させて、その確定額を基準にして、和議条件に従がい支払うのは、当然といえる。

なお、破産の場合は、届出債権のうち異議なき債権額は確定債権となり、これが弁済を受けるべき債権額となるのに対して、和議の場合は減額、免除されるのが通例で、その場合は、減額や免除されると弁済を受くべき債権額が減額されることになるので、債務者としては、その弁済すべき額をこえて支払いすべきことは拒絶できるのである。

3  本件の場合、訴外石田産業株式会社は、被告振出の約束手形を原告に裏書しているものであるから、右訴外会社が原告に二〇パーセントの配当をすると、和議法四五条において準用する破産法二六条の規定により、訴外会社が取得した権利に基づき、被告に対し和議条件に従がつた支払いを求めてくることとなるが、その場合、原告主張のように、右訴外会社からの弁済があつても、債権表に記載された金額を減額する必要はなく、その全額で配当に加わることができるとなれば、被告は和議条件で決められた元金五〇パーセント以上の支払いを強いられる結果となり、不当というほかない。それは、和議条件を違法に変更させるものでもある。

4  さきのとおり和議法四五条は破産法二六条をも準用しており、右訴外会社は原告の債権をも含めて総べての債権について届出をしてきたが、債権表では、右訴外会社が裏書譲渡している手形で、裏書をうけた手形所持人が債権届出をしているものについては、右規定に従がい、異議が述べられ、議決権行使は認められなかつた。従つて、右訴外会社が原告に支払いをして、原告の権利を取得した範囲では、右訴外会社が被告に対し和議条件に従つた権利行使ができることは当然で、その範囲で原告の権利は消滅せざるを得ないものである。

四、被告の見解に対する原告の反論

1  全部義務を負う者の全員または数人が破産宣告を受けたときは、債権者は各破産財団に宣告時の債権全額で権利を行なうことができる、とする破産法二四条の定めは、そのまま和議法四五条によつて和議の場合に準用され、本件の場合に、原告が和議開始決定時の債権全額につき、被告と訴外石田産業株式会社の双方に権利行使できることは、右法条の文理上も、また、本来両者がそれぞれ全部義務あることを尊重する法の趣旨からも極めて明白といえる。

もともと、和議の成立によつて、主債務に一部免除が行なわれたときでも保証債務には影響を及ぼさないとされているように、和議による免除の効力が、当該和議当事者間に限定的に解されるのは、本来全部支払義務あるものを、和議制度の特殊の要請から、債権者にあえて負担を強いるという制度の趣旨、従つて、また、あえて負担を強いた結果の和議債権額だけでも他の影響をうけずに弁済させるという法の趣旨から考えて当然のことである。

2  和議の場合、破産と違つて債権が確定しないというだけでは、前記の取扱いに差異を生じさせる合理的な理由とはならず、求償額に関する被告の主張は主客転倒のうらみがあり左袒し得ない。

約束手形目録

〈省略〉

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